ゴールデン街

 
※街の写真はNGのため、チャンピオン店内です...残念(-_-;)


長年挿し飲みをしているK氏が最近こっている飲み屋探索に付き合う。
今日は前々から行きたかった新宿ゴールデン街に行くらしい。
新宿ゴールデン街」、僕のイメージは寂れた飲み屋街、おやじの飲み屋、そんなイメージしかなかった。

手始めにゴールデン街入り口にある「チャンピオン」という店に入る。店内は5坪ほどの敷地、原色系の照明、お誕生日会のような安っぽい飾りと酒ビンで装飾された店内。
店主も外人ならメニューも英語である。K氏はゴールデン街の入り口であるこの店には来たことはあるが、本当のゴールデン街には入った事はなく、前回来たときは、沢山の外人さんと高校の修学旅行で抜け出してきた高校生、そんな人達でごった返していたらしい。大阪から来ていた高校生は、「やっぱ東京って言ったらゴールデン街でしょう。」ということで、ホテルを抜け出して憧れの街であるここに来ていたようだ。

今日はまだ時間が早く、店も盛り上がりに欠ける、早々とチャンピオンを後にしてさらに街の奥へと入っていく。10m程度の路地に片面だけで20件はあろうかという飲み屋街、扉と扉がすぐ隣にあり、この奥がすべて違う店というのだから驚く。

怪しい店ばかりで何を基準に選べばいいのか分からない。
ビール一杯飲んで1万円、なんていわれても怖い。
K氏は「踏み込まなければなにも始まらない!」という声と共に一軒の店に入っていった。

「お帰りなさいませ、ご主人様」、どうやらメイドバーのようだ。
1人のメイドと1人の執事と呼ばれる店主、カウンター席が7つ、3坪程度のお店だ。
そしてすでに3人のご主人様が飲んでいる。K氏がメイド趣味とは! と思ったが、実はK氏もそういう店は初体験らしく、流れがまったく分からないままビールを注文し様子を見る。どうやら他愛もない話をメイドと執事とお客がして、そしてお客同士でも会話を楽しむらしく、オタク談議に花が咲く。K氏はゲーム会社で嫌々ギャルゲーを作らされた経験を持つだけあってそれなりに会話についていっていたが、私はどうも性に会わない。ただ、なんとなくゴールデン街の雰囲気が分かった。
その雰囲気を作り出すのは店主とお客しかいない、この3坪の店とカウンター席という狭い空間は会話をする必然性を生み出すための必須条件のようだ。そして、店主は自分の好きなカラーの店を出し、それを気に入るお客が常連として居つき、その空間での会話は、一種の文化と言うべきものを作っているようだ。

さらなるご主人様が来たのをきっかけに次の店に行く。しかし次の店でもどうでもいい話を愛想笑いをしながらの無理な会話、初対面の人との会話は小心者な僕の神経を磨耗させる。

正直もう帰りたくなったが、最後の一軒ということで、映画のポスターが張ってある「談SINGシネマ」という店に入る。
お客は1人もいない。
3坪程度に店内に7席ほどの席、壁には一面に映画のポスターが貼られてあり、カウンターの向こうにはメガネをかけた白髪交じりの初老のマスタがいた。やはり1つビールを頼み様子をみる。
「初めてですよね」という言葉を皮切りに、映画のポスターが張ってあるから入ってみた話をすると、
「『シネマ』って書いてあるしね。 でもこの街で映画っぽいところでも映画の話できるような店は少ないんだよね」との事。
マスターは映画会社に勤務していたころ、よくゴールデン街に飲みに来ていたらしく、第二の人生で映画と音楽に触れ続けることが出来るこの街に店を出すように決心したらしい。だから知り合いの映画スタッフなどもよく店に来るとの事。

ゴールデン街が初めてであることを言うと、年間300本映画を見るマスターはゴールデン街の歩き方もちょうちょい教えてくれる。街に店は250件近くあり、その中には自分を受け入れてくれる店が絶対あるとの事。そしてその店を起点に色々な店を増やしてみるのがよい。小樽から来た青年は自分の気に入った映画の話を地元で話しても受け入れられることはなく、ここに来て共感できる人がいたことに感動を覚えたらしい。

僕もマスタの作ってくれた焼きそばを食べながら、なかなか受け入れられない話を大いに語る。新しく来た常連のお客を加え、最近の映画と最近の街の話題を肴に明け方まで飲む。

僕のゴールデン街のイメージは廃れた飲み屋街から大人有料サークルの如き存在に変わっていた。

今度来るときには、この店を起点にまた回ってみたいと思う。