酒井戸


じいちゃんの一周忌。
お墓参りと坊さんのありがたいお経を聞きに市川市亀井院まで向かう。
お経やお焼香やお墓参りを一通り終えて、お坊さんと共に会食をする。


じいちゃんは無類の酒好きだった。
それを思い出した僕は供養の為にも昼間っからビールを飲む。ビールを飲みながら、なんとなく小学生の夏休みにやった、じいちゃんのアルバイトを思い出した。


「アルバイトに来ないか?」とじいちゃんからの電話がかかって来た。
小学生だから別にお金に困っていたわけじゃないけれどアルバイトという言葉に引かれて、僕は母親と共にじいちゃんの家に向かった。
アルバイトは庭の草むしり。
セミの鳴く中、僕とばあちゃんとで木陰に生えた雑草をむしっていた。
30分くらい草をむしっていると正午を知らせる鐘の音がなる。
おばあちゃんは「お昼にしようか。」と言い、僕の好きなうなぎを注文してくれた。


食事を終えて扇風機の前で「あー、あー、わ・れ・わ・れ・は・う・ちゅ・う・じ・ん・だ。」と言う遊びに飽きた頃、
そろそろ午後の草むしりをしようと思っていると、じいちゃんが来て、
「バイトご苦労さん。ほらバイト代だ。」と言って財布から1万円札を出して渡してくれた。


今考えるとバイトでも何でもない、『孫』なんだなと思う。


お坊さんの世間話を聞きながらビールを飲み、食事もひとしきり終わると、
横にいるばーちゃんが、
「今日来てくれてうれしかったから。」といって一万円をくれる。
「俺、もう働いてんだよ。」といっても
「はやくしまっちゃいな」といって絶対に受け取らない。


いつまでも『孫』なんだなと思う。


帰り際、境内の片隅にある井戸が気になり近づく。井戸を塞いでいる蓋を持ち上げて中を確認する。
蓋を取った一瞬、お酒の匂いがした...気がした。
「まさか。」と思うと、もうお酒の匂いはしなかった。
そこには黒光りする水がただ満たされていた。


たぶん少しよっぱらたんだと思い。
じいちゃん、好きな酒を飲んでんだなとも思う。


P.S結構由緒ある井戸のようです。

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