雪の中の星空


仕事を終えて車まで傘を差して歩く。
車のドアを開けて傘を助手席の足元にほうり投げて、ドアをすばやく閉めながらシートに座る。雨の音は少し弱まり、車の中は自分の時間になる。
服はびしょぬれ、Gパンは肌に張り付くぐらいだ。
「やれやれ、この雨はひどいな。」と呟く。
いつの間にか後ろにいたネズミが言う。
「またかい? 君はもう学んだんじゃなかったのかい。」と言う。
「でもこの雨だよ。何にカメラを向けてもひどいものになってしまうよ。そしてこの服さ。」とびしょびしょの服を見せる。
「君は試してみたのかい?カメラや服が濡れることがいやなだけなんじゃないかい?」とネズミがいう。
僕はネズミの声を無視して、車にキーを挿しエンジンを掛ける。
心地よいエンジン音と共に、カーステレオからは映画音楽が流れ出す。
ゆっくりと動き出す車、視界の悪い景色の中、いつもよりも速度を落として車を走らせる。
「『雨に唄えば』という映画を知っているかい?」とネズミ。
「...」
「それじゃー子供の時の台風は?」
「...」
僕はネズミの言うことを無視し続けていた。
だけど、ネズミの言うことは耳を通り過ぎるのではなく、どちらも自分の雨の日の楽しい記憶を呼び覚ましている。

道路は水浸しで、車の跳ね上げる水が波のように見える。対向車の車のライトは雨を光らせ、風と雨を浮きただせる。

「なんか、船にのっているみたいだね。」と僕は呟く。
「そうそう。そういう感じ。」とネズミがいう。
「雨の写真が撮りたくなってきたよ。」と僕。

自宅に着き、カメラを取り出して、マンションの軒下まで走る。
フラッシュを炊きながらシャッタを押す。
意外な雨の写真が写る。
「雨というよりは...」
僕は近くの公園まで走り絞りとピントを調整してシャッターを何度も押す。
フラッシュの光は雨を一瞬だけ止まらせる。

カメラも服もずぶ濡れ、家に帰り服を着替え、カメラに収められた写真を見る。
撮られた写真は曇り空も雨も写っていなかった。
「なかなかのものじゃないか♪」とネズミは笑った。

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