台風一過の夕日を逃す


台風一過の空は抜けがいい。
大気のゴミや雲を全部巻き上げて去った後には綺麗な澄んだ空が広がる。
そう思って朝から台風一過の夕日を狙っていた。
午前中には台風は通り過ぎ午後には晴れ間が広がっていた。
だけど会社の窓から外を見てもそれほど空気が澄んでいるようには見えない。
「今回はだめだな」っと5時くらいにあきらめていた。


「一応早く帰ってみるか」と思いなおし、早めに仕事を切り上げ6時ごろに会社を出る。
すると見上げた空は思いのほか赤く染まっている。
あわててカメラを準備して車に飛び乗る。
そしてあらかじめ決めていた撮影ポイントまで少し車を走らせ、特等席まで全速でダッシュする。
「ぜ〜、ハ〜、ぜ〜、ハ〜...やっぱり間に合わなかったか。」と落胆する。
それでも息を整えてカメラを構える。
台風で増水した鬼怒川とあかりの灯り出した町。
そして、少し残った夕焼け。


撮影を終えて岐路に着くと、薄暗い先の道から人が来るのが見える。
辺りは日も落ちて暗く、人気のない雑木林の中なので少し身構える。
「夕日は撮れたかい?」とM先輩の声。
「Mさんじゃないですか、びっくりした...残念ながら夕日は間に合いませんでしたよ」と僕。
休憩時間に台風一過の夕日について話していたのを思い出す。
二人でまたビューポイントまで戻り、増水した鬼怒川とわずかに残った夕暮れをみる。


増水した川のことや今日あった台風のすごさについて話す。
二人ともいい大人なのに何気に台風にドキドキしていたのだなっとふと気がつく。
夕日は撮れなかったけど、こんなのもいいもんだな。