日本式聖夜木


町子は生まれてからクリスマスを祝った事がなかった。
家は古いお寺であったし、子供の頃に、クリスマスやサンタクロースの話がでるや否や、修羅のごとく憤慨する父にちゃぶ台をひっくり返されていた。
そんな父の所為で町子の家ではクリスマスの話はタブーだった。
町子が年ごろになったころ、男子に恵まれなかった家の事情から婿に迎え入れた坊主の旦那も、同居している厳格な父の手前、クリスマスを祝う事はなかった。
町子は子供ができた時、子供にはクリスマスを、と密かに思っていた。
そんな思いから蝶子が3歳になった年に密かにクリスマスケーキを買って来ていた。
父が居ないのを見計らって静かにクリスマスを祝っていた時、後ろの襖がバタンと開き、父がちゃぶ台をひっくり返す。
ロウソクの乗ったケーキは宙を飛び、見事に町子の頭に乗かる。
消え残ったローソクの火が町子の髪を燃やした。
そんな師走の珍事件が起こってからは、蝶子もクリスマスを口にする事はなくなっていた。
なぜ父はこうまでしてクリスマスを忌み嫌うのか町子には心当たりはなかった。
町子は一人っ子だったし、母親は町子を産み落とすとすぐに死んでしまったため、真相を口にしてくれる人はいなかった。
お手伝いの梅さんや近所の人もなぜか口を閉ざしてクリスマスと父の関係を口にする事はなかった。
父のあの性格じゃ怖くて言えないのだろうと町子は思っていた。

師走のある日、町子は少し遠くまで夕飯のお使いに出かけた帰り道、近所の公園でベンチに腰をかけた父を見かけた。
おそらく法事の帰りなのだろう、袈裟を着ており、手には数珠を持っていた。
少し遠まきに父に目をやると、どうやら泣いているようだった。
なぜ父が泣いているのか分からない。
あの怒る事はあっても決して泣かない父。
今までそんな所など見た事がなかった。
父の見ている先に目をやると、雪吊りの木と冬桜がほのかに咲いており、まるで雪の降るクリスマスのようであった。
父とクリスマスと涙。
そして死んだ母。

何があったか気になる町子。
クリスマスに何があったんだろうか?
今度梅さんに真剣に聞いてみようと心に決めた。



そんな妄想を広げる日本式聖夜木の光景。
続きは...僕も知りたいです。笑