夕暮れの田園


一枚の写真を撮り、僕は地べたに座る。
「ゲーゴ、ゲーゴ、ゲーゴ」
近くや、遠くでカエルの鳴き声が聞こえる。
「カエルがいっぱいいるなぁ。」僕は隣のネズミに声をかける。
ネズミは、田んぼを見つめながら、
「何匹いるんだろう、大合唱だね。」という。
しばし僕らはカエルのだみ声に耳を貸す。
「...」
「...」
一定のペースで鳴いたかと思えば黙り、また遠くや近くからカエルの声が聞こえてくる。
夕日はだいぶ落ち、田んぼの水面に映る赤が黄色に、黄色はブルーへと変化し、ブルーは闇へ吸い込まれていく。
「今が昼と夜の境だね。」と僕は言う。
カエルは相変わらずのペースで時を刻む。
「そんな境なんてあるのかな。」とネズミ。
「日が沈むのが境だよ。」と僕。
「でも見てこらん、日が沈んだからといってすぐには暗くはならないし、色もだんだん変化する。そう、連続しているんだよ。」とネズミがいう。
「そうかなぁ。太陽が出れば昼、沈めば夜、カレンダをめくれば明日さ。」
辺りはまた闇に消る。
「ゲーゲゴゴ、ゲーゴゲゴゴ、ゲゴゴゴー」
そのぶん、カエルの声は幾分増えたように感じる。
「連続であり、区切りでもある。」とネズミ。
「なんだか光そのものみたいだね。」と僕は田んぼを見ながら言う。
次第に色がなくなる田んぼが目前に見える。

いろいろなことが頭をよぎる。相反するものが対になる。そんなものをいくつか頭の中で挙げてはそのことについて考える。そんな事を繰り返しているうちに、いつの間にか考えているようで、ぼーっとしているような感じになる。


「ゲーロ、ゲーロ」とネズミがカエルの鳴きまねをする。
僕はその声を聞いてネズミの方を見る。
辺りは真っ暗で、ネズミの姿も闇に吸い込まれていて、ただ、本物のカエルの鳴き声だけが当たりに充満している。

「さあ、そろそろ帰ってご飯にしようや。」とネズミは言う。
僕は「了解。」と言って手で膝を「パシ」と打った。